アルコールを飲まない人の脂肪性肝炎
− NASH(ナッシュ)−について





 脂肪肝が最近注目されています。
アルコール性の場合は以前から指摘されていましたが、特に、アルコールを飲まない人の脂肪肝から発症する肝炎も NASH(ナッシュ)と呼ばれ、将来、肝硬変・肝癌に発展することがわかってきました。

 健康診断で肝機能障害があっても、腹部エコーで脂肪肝を指摘されても、自覚症状がないため放置するケースが多くあります。
アルコール性の場合は勿論ですが、アルコールを飲まない人の脂肪肝も、肝硬変・肝癌に発展するケースが多くあります。
検査結果を侮ることなく、また自覚症状に惑わされることなく、放置せずに医療機関を受診し、治療を受けることが必要です。



脂肪肝とはどういう状態ですか
肝細胞の約 1/3以上に脂肪がたまっている状態です。
または、脂質量が肝重量の5〜10%以上を占めると、脂肪肝となります。
正常肝では 2〜3%が脂質です。 主に中性脂肪がたまります。



脂肪肝にアルコール性と非アルコール性があり、非アルコール性脂肪肝の中に、最近肝硬変に進むケース(非アルコール性脂肪性肝炎)があり話題になっているようですが、これについて説明してください。
この病気は、1980年にアメリカの Mayoクリニックの病理学者 Ludwig が命名しました。
まったくアルコールを飲んでいない人に、アルコール性肝炎と同じ組織像(脂肪沈着、マロリー体、 pericellular fibrosis )を呈する人がいるということで、non alcoholic steatohepatitis : NASH という名前をつけました。
即ち、脂肪肝にもう一つの原因が加わり、炎症を起こしたものです。
脂肪がたまっているだけなら放置しても肝臓に悪影響はありません。 しかし、脂肪肝にもう一つの刺激が加わり、脂肪性肝炎という状態になると、これはさらに肝硬変や肝癌に進むことがあり、現在治療の対象になっています。



NASHは脂肪肝の中でどれくらいあるのでしょうか。
約1割の人が NASH といわれています。
中年から高年齢層に多く、性差はないといわれています。



脂肪肝(非アルコール性)の原因、および NASH の原因は何でしょうか。
脂肪肝については、肥満または体重が急増したことも原因になります。
ここ10年間で2〜3倍増えています。 ドック受信者の10〜20%に脂肪肝を認めています。
脂肪肝は、これまでは悪い経過はたどらないとされてきました。 確かに、肝臓に脂肪がたまっているだけであれば心配ないわけですが、最近、その中に肝硬変に進むケースがあることがわかってきました。 これが NASH です。
脂肪肝から NASH が形成される原因としては、いろいろ言われています。
酸化ストレスが key factor と考えられていますが、確かなところはまだ分かっていません。



脂肪肝の診断、およびNASH の診断はどうするのですか。
まず、超音波またはCTで脂肪肝の診断をします。
画像診断では 2/3 脂肪沈着が無ければわかりませんが、大体の見当はこれでつけます。
脂肪肝炎があるかどうかは、厳密には組織をとってみないとわかりません。
一つのやり方として、肥満の人では減量をして、血液の検査が良くなるかどうかを見ます。 良くなれば、そのまま経過観察とします。 良くならなければ、 NASH の疑いが強くなり、肝生検をして NASH かどうかを調べます。

血液検査も診断の参考になります。
脂肪肝は、ALT(GPT)がAST(GOT)より高く、コリンエステラーゼも高い。 空腹時血糖、中性脂肪、コレステロール、尿酸が高い。 これがNASH になり、線維化が進んでくると、AST(GOT)がALT(GPT)より高くなってきます。
勿論、アルコールと関係の無い肝障害であること、また、他の慢性肝疾患が否定できることが必要条件となります。



今、なぜ NASH が注目され始めたのでしょうか。
  1. 現在、肥満、糖尿病は狭心症や心筋梗塞の原因として注目されていますが、NASHから肝硬変、肝癌になり死亡する割合も近い将来心臓病と同じくらいになるだろうと予想されています。

  2. 日本人の中で肥満の人は外国と比べて多くはないのですが、アメリカでの研究で、白人以外の人種というのが危険因子の中に入っています。日本人は NASH になりやすい人種ですので、肥満の日本人は要注意です。

  3. 最近、若い人で肥満の人が増えています。 アメリカでもそうですが、日本でも同様です。
    肝臓に起こった強い炎症による線維化が、おおよそ10〜15年で肝硬変になるようです。
    アメリカでは、今後 NASH は重症肝疾患のなかで、最も頻度の多い疾患になるだろうと推定されているようです。

現在、肝臓病ではウイルス性肝炎が脚光を浴びていますが、NASH が新しい生活習慣病として、切実な社会問題となる日が来ることは、確実と思われます。



最後に、NASH の治療ということになりますが、やはり肥満の解消ということでしょうか。
治療は減量が最も重要と考えられています。
やさしいようで一番難しいことです。(但し、急激な減量は却って NASH を増悪させることがあるので、注意が必要です。)

まず、食事と運動。 食事は間食をなくし、油(脂)を減らし、野菜を多くとることを基本にし、後は自分なりのダイエットを1ヵ月実行します。 運動はウオーキングがよいでしょう。
やせられない時は、1,300キロカロリーくらいのメニューを作って実行します。
それでもやせられない時は、入院して食事療法をすると、やせて血液のデーターも良くなります。 

アメリカのデーターで BMI が 35 を越えると 25〜30%が NASH で、40を越えると 70%近くが NASH になるという報告があります。
また、糖尿病や高脂血症のある人は、それぞれに応じた食事療法が必要になります。 

NASH の薬物療法としては、ウルソデオキシコール酸が有効であるという報告があります。
 

また、NASHの約3割には、鉄が過剰に沈着しており、これが、発症の原因になっている事がわかってきました。
この場合の治療法としては、溶血や鉄分の多い食事をとらないようにすることです。



アルコール性脂肪肝について説明しましょう。
アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝のでき方の違い
  • アルコール性脂肪肝は、アルコールによって肝臓の働きが落ちます。 その結果、肝臓に運び込まれてきた脂肪酸を燃やしにくくなり、そのため中性脂肪が多くなります。
    また、その中性脂肪を運び出す働きも低下し、脂肪肝となります。

  • 非アルコール性脂肪肝は、食事からとるエネルギーが多く、従って、肝臓に運ばれる脂肪酸の量が多いことが、発症の原因になっています。
アルコール性脂肪性肝炎とは。。。
これは、単に肝臓に脂肪がたまっているだけでなく、炎症を伴っている点が脂肪肝と違います。
アルコールを多量に飲むと、肝臓内にアセトアルデヒドという物質が作られます。 これが有害な物質で、肝細胞を傷害し、炎症を起こすことになります。
そのため、放置すると短期間で肝硬変にまで進行します。


2004年 4月

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